現在は、六代目の西田光子さんとお嫁さんの明子さんが伝統を守っています。光子さんは、この道60年という大ベテランです。
23才で嫁いで来られた時に初めて人形筆を作り始め、見よう見まねで覚えたとお聞きしました。
すべて細かい手作業ばかりで、糸車をスルスルと回しながら、日本刺繍に使われる色とりどりの絹糸をとても素早く軸に巻いていきます。
14〜5色ある絹糸の中から、筆1本に対して、多いもので7色、少ないもので2色、選び出します。
まず、軸になる竹の両側の中心に印をつけ、1.5cmごとに絹糸を巻いていきます。
細い絹糸4本を撚って1本の糸にして、その糸の先に糊をつけ、濃い色の糸から順に巻いていきます。
基本の模様は、市松、青海波、うろこ、矢がすりの4種類ですが、組み合わせと色を変えることで、多種多様な模様がいくらでも出来るそうです。
街で出会った様々な洋服や和服の柄にヒントを得て作った、光子さんオリジナルの柄を入れると人形筆の模様は100や200では利かないそうです。
青海波はお祝いの品として、また、うろこは魔除けとして珍重されています。基本の柄は、ごまかしが利かないので、作るのがとても難しいそうです。
軸の模様を巻いた後、象牙でこすって、巻き跡をならしてから、人形を軸に仕込みます。
模様のきれいな方が正面になる様に、人形の顔の向きを合わせて、からくりを下から差し込みます。人形が7割くらい飛び出たら止めて、人形が動くかどうか確かめます。人形は石膏と小麦粉を1:1の割合で混ぜたもので出来ています。
竹ヒゴにつけて乾かした後、墨を浸した綿花に頭をつけていきます。
そして、一つ一つ顔を描き、着物を着せて、ニスを塗ります。形をつけた針金と重りを人形に糸で結びつけると、からくりが出来上がります。
このからくりは長い伝統のある特許のようなものなので、ご先祖から代々伝わってきた家伝の秘密だったのですが、光子さんが、せっかく面白い仕掛けだからと、すべて公表されたそうです。
最後に、穂先を削り、糊をつけて軸に差し込むと人形筆が出来上がります。細筆とセットになったものは習字が好きになる様にという願いが込められており、赤い着物の女人形と緑の着物の男人形がセットになった夫婦筆は、子宝授与の縁起物と言われています。
画像をクリックすると拡大表示がご覧いただけます。
このように、細かい手作業なのですが、光子さんの他に、息子さんやお嫁さんなど、7人ほどの方がお手伝いされています。すべての工程を一人ですると、一日に4〜5本しか出来ないそうです。
光子さんは主に絹糸を巻く工程を担当していますが、巻く作業だけに専念しても一日に15本くらいが限度です。
「一つ一つ模様が違うからこそ、すべて"光子さんの宝物"に見えます。毎日、同じ手作業の繰り返しでも、いろんな人が訪ねて来られるので、人との出会いが一番楽しみです。」と話してくださいました。
有馬小学校の生徒さんも人形筆作りの体験学習にやって来て、からくりの秘密を知り、大喜びだそうです。
最近では、全国から注文があり、よその地方でも販売してはどうかというお話もあった様ですが、有馬に来ないと買えない、有馬に行ったら買おうと思ってもらえる様に、有馬以外の店には卸さないという方針を守っておられるとのことです。
屋号の「灰吹屋西田筆店」について伺ってみましたが、光子さんにもはっきり分からないとのこと。
昔、ご主人に聞いたところでは、筆には油が付いているので、灰で油を取っていたところから来ているのではないかというお話でした。
今では一軒だけになりましたが、光子さんがお嫁さんに来られた頃は、西田筆店のあたりは筆屋町と呼ばれるほど筆屋さんがたくさんあったそうです。
私たち龍泉閣スタッフも、有馬でしか手に入らない、からくりの筆、「人形筆」をこれからも大切にしていきたいと思います。
「灰吹屋西田筆店」
営業時間 9:30〜18:00 定休日:水曜日 Tel 078-904-0761 |
|